概要:政府・日銀が22日に実施したドル売り・円買い介入は、想定を超えて世界の金融・資本市場にその影響が波及した。介入資金の確保で日本政府保有の米国債が売却されるのではないかとの思惑から米長期金利が上昇したとの指摘もあり、ダウは3万ドルの大台を、26日の日経平均も2万6500円を割り込んだ。
[東京 26日 ロイター] - 政府・日銀が22日に実施したドル売り・円買い介入は、想定を超えて世界の金融・資本市場にその影響が波及した。介入資金の確保で日本政府保有の米国債が売却されるのではないかとの思惑から米長期金利が上昇したとの指摘もあり、ダウは3万ドルの大台を、26日の日経平均も2万6500円を割り込んだ。
政府・日銀が22日に実施したドル売り・円買い介入は、想定を超えて世界の金融・資本市場にその影響が波及した。
円安阻止に動いたら9月中間決算直前に株価の大幅下落を引き起こした形で、日本の金融機関や事業会社の決算に少なからず打撃となった可能性がある。また、日銀の超緩和策が維持される中でのドル売り・円買い介入は「水とお湯を同時に注入する」ような対応とも言え、介入を繰り返すうちに効果が漸減して「出口」が見えなくなり、泥沼にはまり込む危険性もはらんでいる。
<22日の介入額、1兆円超か>
政府・日銀は介入規模を明らかにしていないが、市場動向に詳しい関係筋は1兆円を超える規模になった可能性があるとみている。
無制限に行える円売り介入と異なり、円買い介入は外貨準備の範囲内に限定され、保有する米国債を売却して資金を確保すれば、米国債市場に影響が出るとみられていた。
実際、23日の米債市場では、2年債利回り は4.270%と、2007年10月以来の高水準を付けた。5年債利回りは4.084%と07年11月以来の高水準、10年債利回りは3.829%に急上昇し、10年4月以来の高水準となった。
米連邦準備理事会(FRB)をはじめ主要国の中銀による引き締め加速への警戒感が意識されたが、市場関係者の一部によると、日銀の円買い介入の「実弾確保」のための米国債売りが意識され、上昇幅を拡大させた面もあったという。
<米国債売りなしの手法>
ただ、米国債市場や中銀間の動向に詳しい関係筋は、米債市場での米国債の現物売りは行われず、主要中銀間で結ばれているドル資金の融通を図る制度が活用された可能性があるとみている。
例えば、新型コロナウイルスの世界的感染を契機にドル資金が不足する事態に対応するために創設された海外・国際金融当局(FIMA)向けレポファシリティーを活用した可能性がある。ただ、この仕組みを利用する場合、フェデラルファンドレート適用の利子がかかり、コスト負担がかさむという面がある。
また、日米間で締結している通貨スワップ協定を活用した可能性もある。
<方向性が真逆の政府と日銀>
いずれにしても、追加の円買い介入が実施されても、米債市場において大量の米国債売りが出てくることはなさそうだ。
ただ、円安の原因になっている日米金融政策のかい離とその結果としての日米金利差の拡大が続く限り、介入を実施しても円安の基調を変えるのは難しいだろう。22日の会見で日銀の黒田東彦総裁は、現行の超緩和策を当面維持するとし、当面の期間は「数カ月ではなく2、3年くらい」と述べた。
介入で円を吸い上げても、黒田総裁はイールドカーブコントロール(長短金利操作)で吸収するので、金融が引き締まることはないと会見で説明した。つまり、あえて簡略なたとえをすれば、浴槽に「水とお湯を同時に注入している」ことにもなりかねないわけだ。
マクロ政策の方向性が財務省と日銀で正反対であれば、海外の投機筋はそのすきを突いてくるだろう。介入水準が徐々に切り上がり、それでも円安進行が止まらない場合、今回の介入実施という作戦の出口はどこになるのか、ということが問題になる。出口が見い出せずに介入が長期化すると、効果が低減してドル沼に陥るリスクも浮上してくるだろう。
今回の介入によって日本の株安の傷口が広がった可能性があるように、これからの介入で想定外のルートによるマネーフローのゆがみが出てくる可能性もある。
1つ言えることは、きょうの日経平均の大幅な下落でチャートの形が崩れ、日本株は国際比較で下値が堅いという見方に疑問符が付きかねなくなったことがある。10月以降の世界市場の動向は、かなり厳しさが増してきたようだ。
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