概要:アステナホールディングス<8095>(東証プライム)はヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。そしてグループ中長期
アステナホールディングス<8095>(東証プライム)はヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。そしてグループ中長期ビジョンでは定量的ターゲットとして30年11月期売上高1300億円以上、ROE13%以上を掲げている。22年11月期は為替の急激な円安進行、原材料価格や物流費の高騰などで減益予想だが、ファインケミカル事業と医薬事業の収益回復に向けて下期は事業戦略の再構築を図るとしている。積極的な事業展開で23年11月期の収益拡大を期待したい。株価は地合い悪化も影響して反発力の鈍い展開だが、高配当利回りや低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。
■ヘルスケア・ファインケミカル企業集団
旧イワキが21年6月1日付で持株会社体制に移行して商号をアステナホールディングスに変更した。アステナは「明日(未来)+サステナブル(持続可能)」の造語である。ヘルスケア・ファインケミカル企業集団として、製造分野が利益柱となり、医薬品・医薬品原料・表面処理薬品を主力とする専門商社からメーカーへと変貌している。
21年11月期のセグメント別売上高構成比はファインケミカル事業(医薬品のCMC研究開発・製造受託、医薬品原料の製造販売)が32%、医薬事業(医薬品・医療機器の製造販売)が17%、HBC・食品事業(化粧品原料の販売、食品原料・機能性食品の製造販売、一般用医薬品の卸売、化粧品の通信販売)が39%、化学品事業(表面処理薬品の製造販売、プリント基板製造プラントの製造販売)が12%、営業利益(全社費用等調整前)の構成比はファインケミカル事業が58%、医薬事業が40%、HBC・食品事業が▲14%、化学品事業が16%だった。
■新しい戦略的ビジネスモデルを構築
4つの新しい戦略的ビジネスモデル(調達プラットフォーム事業、インキュベーション事業、注射剤CDMO事業、塗り薬CDM事業)を構築している。
ファインケミカル事業は、20年3月に子会社化した医薬品CMC研究開発・製造受託のスペラファーマと、スペラファーマの子会社として20年7月に設立したスペラネクサスを中心に展開している。さらに岩城製薬のファインケミカル事業をスペラネクサスに承継し、医薬品原薬のCMC研究開発から製造受託・販売まで一貫体制を構築した。20年6月にはスペラファーマが創薬ベンチャーのジェイファーマに出資した。21年4月にはスペラファーマがペプチド合成技術を保有するJITSUBOを子会社化した。
なお21年3月には岩城製薬(スペラネクサスに承継)が、オンコリスバイオファーマ<4588>の新型コロナウイルス感染症治療薬OBP―2011の臨床試験開始に必要な治験薬原薬の製造法開発とGMP製造を受託することで基本合意し、21年7月にはスペラファーマがオンコロスバイオファーマからOBP―2011の治験薬製剤のGMP製造を受託することで基本合意した。
22年2月にはスペラファーマがインタープロテインと、アンメット・メディカル・ニーズの高い様々な疾患に対する新規低分子およびペプチド医薬品の研究開発、製造ならびに商業化を目的とした包括的協業に関する覚書を締結した。
医薬事業は岩城製薬と20年7月に鳥居薬品佐倉工場を継承した岩城製薬佐倉工場を中心に展開している。さらに20年1月には医療用後発医薬品・一般用医薬品開発の前田薬品工業に出資、21年1月には岩城製薬が新しいコンセプトの抗ウイルス薬開発に取り組んでいるキノファーマに出資して業務提携した。21年4月には岩城製薬がインタープロテインとCOVID―19治療薬の共同研究契約を締結した。22年4月には岩城製薬がヤンセンファーマから「ニゾラールローション2%」の日本における製造販売承認を承継・販売移管した。岩城製薬にとって初の長期収載品の扱いとなる。
22年7月には、スキンケアブランド「ナビジョン/ナビジョンDR」について、資生堂ジャパンが保有していたブランドホルダー機能を岩城製薬に移管することで合意した。ブランド価値向上に向けて役割分担を見直し、資生堂ジャパンが行ってきた研究開発・商品開発機能およびマーケティング機能を岩城製薬が担い、資生堂ジャパンは現行品の製造を担う。22年8月には、岩城製薬がキノファーマと尋常性疣贅を適応症とした共同開発・商業化契約を締結した。
HBC・食品事業はイワキ(イワキ分割準備会社が21年6月商号変更)とアプロスを中心に展開している。20年12月には健康食品・化粧品販売のマルマンH&Bを子会社化、21年7月にはイワキがスカイネットから薬事サポート事業、自社開発事業および輸入製販事業を譲り受け、21年9月にはイワキが住建情報センターのヘルスケア事業を譲り受けた。22年1月にはイワキが食品原料調達WEBプラットフォーム「シェアシマ」を運営するICS―netに資本参加した。
化学品事業はメルテックス、東京化工機、および海外子会社等を中心に展開している。
■SDGsへの取り組み推進
持株会社体制への移行に伴い、グループ全体のBCP(事業継続計画)対策および従業員の働き方・生き方の選択肢多様化を目的として、21年6月に本社機能の一部を石川県珠洲市に移転した。さらに、石川県珠洲市が地方創生に向けた人材育成事業の一環として行っている能登SDGsラボと協業し、30年までにSDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進する。
21年6月には新規事業のインキュベーションを担う専任部署として新規事業推進室を設置した。SDGs推進に向けて、化粧品原料・製品(グループ会社JITSUBOのペプチド合成法Molecular Hivingによる高品質で環境に優しく、コスト優位性のある化粧品原料・製品)事業、地方創生に繋がるハイブリッド型ふるさと納税プラットフォーム事業、健康食品原料事業(国産の安心・安全な健康食品原料・製品の第6次産業化を目的として、石川県珠洲市で健康食品の原料となる植物等の栽培を行う事業)などを推進する。
21年7月には、奥能登地域のSDGS達成支援を目的とするファンド「奥能登SDGs投資事業有限責任組合(奥能登SDGsファンド)」に出資した。特定子会社となる。21年8月には、グループの業務サポートやファシリティーサービスを提供するアステナハートフル(21年6月設立)が、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく特例子会社の認定を取得した。
21年11月には能登地域のSDGs達成の支援を目的として、能登地域の自治体3市(七尾市、輪島市、珠洲市)・2町(穴水町、能都町)、および国立大学法人金沢大学、奥能登信用金庫、のと共栄信用金庫、北國フィナンシャルホールディングス、BPキャピタルと、SDGs推進に係る連携と協力に関する協定を締結した。21年12月には子会社のイワキ総合研究所の商号をアステナミネルヴァに変更した。新規事業推進室を移設し、事業内容も地方創生に関連する事業に変更した。
22年7月にはアステナミネルヴァが、パープルテクノスの子会社で、石川県の地域ポータルメディアを展開するイシカワズカンの株式の一部を取得した。ヤマガタデザイン(山形県鶴岡市)と連携し、若者のU・Iターン地方移住を推進するウェブメディア「チイキズカン」プロジェクトを22年9月に立ち上げる予定だ。
■中長期ビジョンの目標は売上高1300億円以上、ROE13%以上
2030年に向けたグループ中長期ビジョン「Astena2030」では、定量的ターゲットとして30年11月期の売上高1300億円以上、ROE13%以上を掲げ、中期経営計画(ローリング形式、新会計基準)の目標値は24年11月期の売上高600億円、営業利益38億円、ROE8.9%としている。
セグメント別30年11月期目標値は、ファインケミカル事業が売上高400億円で営業利益率9%、医薬事業が売上高228億円で営業利益率13%、化学品事業が売上高130億円で営業利益率10%、HBC・食品事業が売上高450億円で営業利益率3%としている。
基本戦略としては、プラットフォーム戦略(CMC=医療用医薬品研究開発の国内トップレベルでの受託、ヘルスケア調達プラットフォーム=医薬品・化粧品・機能性食品製造会社の全ニーズをカバー、創薬インキュベーション=CMC提供を通じて新薬開発の成功確率を高める、CDMO=注射剤・外皮用剤・治験薬の受託製造)、ニッチトップ戦略(外皮用剤ジェネリック医薬品=国内塗り薬ジェネリック医薬品市場NO.1、ハイエンド表面処理薬品=エレクトロニクスに特化した表面処理薬品)、ソーシャルインパクト戦略(シニア・アクティベイト=化粧品・機能性食品の提供を通じてシニア総アクティブ化推進)を掲げている。
ファインケミカル事業は、CMC・CDMO事業および調達プラットフォーム事業を2本柱として、原材料調達からCMC研究、原薬商用生産までの医薬品開発・製造の幅広いサービスを提供する。
医薬事業は、皮膚科領域をベースとして外皮用剤品目数および生産キャパシティでトップ、グローバル要求水準に対応して高活性注射剤CDMOのトップを目指す。また外皮用剤、注射剤導入、新薬共同開発、M&A・アライアンスで事業基盤強化・拡大を目指す。
化学品事業は、エレクトロニクス実装市場のトレンドを捉えたニッチトップ商品の継続的開発、ハイエンドパッケージ基板での地位確立、チップ部品用途の台湾・中国大手での採用、半導体パワー・センサー系薬品の差別化を推進する。またグローバル企業との共同開発も推進して成長を目指す。
HBC・食品事業は、原料ビジネスのDX化による顧客の開発・調達プロセスの課題解決プラットフォームの提供、独自性を高めた商品・サービスの提供による市場価値増大を推進する。またダイレクトマーケティング領域への投資を実行して、領域特化型ネットワークを構築する。
その他では既存事業との親和性、将来に亘る成長性、グループ全体への波及効果なども勘案して、SDGsの達成と社会変革の実現を目的とする売上100億円規模の新規事業を推進することを目標とする。
なお資本効率向上に向けた拠点見直しの一環として、21年6月に名古屋オフィスおよび福岡オフィスの不動産を譲渡すると発表している。譲渡時期は未定だが、譲渡後も賃借で継続利用する。
■22年11月期減益予想だが23年11月期収益拡大期待
22年11月期の連結業績予想(収益認識会計基準適用のため前期比増減率は非掲載、利益への影響なし、22年7月13日付で利益を下方修正)は、売上高が500億円、営業利益が10億円、経常利益が10億円、親会社株主帰属当期純利益が11億円としている。なお特別利益に固定資産譲渡益(IW日本橋ビル、引渡日22年3月、譲渡益約6億50百万円)を計上する。配当予想は21年11月期と同額の18円(第2四半期末9円、期末9円)としている。
為替の急激な円安進行、原材料価格や物流費の高騰などで減益予想としている。収益認識会計基準適用の影響としては、従来方法と比較して売上高が約230億円減少する見込みだが、営業利益、経常利益、親会社株主帰属当期純利益への影響はないとしている。修正後の各利益の増減率を21年11月期実績値(収益認識会計基準適用前)との単純比較で算出すると、営業利益は55.2%減益、経常利益は58.7%減益、親会社株主帰属当期純利益は36.6%減益となる。
第2四半期累計は、売上高が249億34百万円(収益認識会計基準適用前の前年同期は362億34百万円)、営業利益が7億20百万円(同14億94百万円)、経常利益が8億35百万円(同15億73百万円)、そして親会社株主帰属四半期純利益が9億32百万円(同9億75百万円)だった。
収益認識会計基準適用の影響額として、従来方法に比べて売上高が110億90百万円減少、売上原価が110億57百万円減少、営業利益、経常利益、税金等調整前四半期純利益がそれぞれ0百万円減少している。収益認識会計基準適用前ベースで見ると売上高は前年同期比0.6%減の360億25百万円、営業利益が51.8%減の7億20百万円、経常利益が46.9%減の8億35百万円、税金等調整前四半期純利益が4.3%減の14億64百万円となる。売上面は堅調だが、為替の急激な円安進行、原材料価格や物流費の高騰などの影響で減益となった。
ファインケミカル事業は売上高が75億29百万円(同116億39百万円)で、利益(調整前営業利益)が4億73百万円(同7億25百万円)だった。旧会計基準ベースではスペラネクサスの売上増加や有機EL材料製造受託などで増収だが、スペラファーマの売上減少やコスト増加などで大幅営業減益だった。CDMO分野が事業環境の変化や案件納期の変更などの影響で低調だった。
HBC・食品事業は売上高が72億01百万円(同140億01百万円)で、利益が65百万円の赤字(同3億49百万円の赤字)だった。旧会計基準ベースでは小幅減収だが、グループ内事業ポートフォリオ組替影響や不採算取引減少などで赤字が縮小した。
医薬事業は売上高が58億84百万円(同65億13百万円)で、利益が3億52百万円(同9億22百万円)だった。旧会計基準ベースで減収となり、大幅減益だった。前期発生した一過性の自主回収費用は剥落したが、佐倉工場の売上減少、蒲田工場の稼働率低下、グループ内事業ポートフォリオ組替影響、原料・電力料高騰などが影響した。
化学品事業は売上高が43億18百万円(同40億96百万円)で、利益が38百万円の赤字(同2億05百万円の黒字)だった。旧会計基準ベースでは増収だが、売上構成変化やコスト増加の影響で大幅減益だった。予定していた新規採用が第3四半期に延期となったことも影響した。
なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が122億85百万円で営業利益が6億30百万円、第2四半期は売上高が126億49百万円で営業利益が90百万円だった。
通期(修正後)の営業利益の前期比増減計画は、ファインケミカル事業がスペラファーマの売上減少やコスト影響などで9.6億円減益(期初時点の計画は3.7億円減益)、医薬事業が売上減や稼働率低下などで7.0億円減益(同4.8億円減益)、HBC・食品事業が本社経費配分変更や化粧品回復などの影響で4.5億円増益(同1.4億円増益)、化学品事業が本社経費配分変更などで1.9億円減益(同1.8億円増益)としている。
また、旧会計基準・HD化に伴う影響を除外したベースの計画(前期比)は、ファインケミカル事業が2.6億円減収で7.0億円減益、医薬事業が3.6億円減収で6.4億円減益、HBC・食品事業が13.2億円減収で1.8億円増益、化学品事業が7.9億円増収で0.9億円増益としている。
22年11月期は減益見込みとなったが、減収減益見込みのファインケミカル事業と医薬事業の収益回復に向けて下期は事業戦略の再構築を図るとしている。積極的な事業展開で23年11月期の収益拡大を期待したい。
■株主優待制度は毎年11月末時点で1年以上保有株主対象
株主優待制度は毎年11月末時点で100株(1単元)以上を継続して1年以上保有する株主を対象として実施している。グループ化粧品詰め合わせセットなどを贈呈(詳細は会社HP参照)する。
■株価は調整一巡
22年7月13日発表の自己株式取得(上限90万株・3億円、取得期間22年7月14日~22年9月30日)については、22年9月16日時点の累計取得株式数が67万6400株となって終了した。
株価は地合い悪化も影響して反発力の鈍い展開だが、高配当利回りや低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。9月29日の終値は430円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS27円59銭で算出)は約16倍、今期予想配当利回り(会社予想の18円で算出)は約4.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS677円09銭で算出)は約0.6倍、時価総額は約175億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)